外国為替市場は世界最大かつ最も流動性の高い市場であり、高いボラティリティ(価格変動)は避けられない要素です。FXトレーダーにとって、価格の変動は日常茶飯事です。このようなリスクを軽減するために、さまざまなヘッジ戦略が活用されます。
FXにおける「ヘッジ」とは、不利な市場の動きから自身を守るために、追加のポジションを戦略的に建てる手法です。考え方はシンプルで、保有中のポジションと逆方向の取引を追加することで、リスクを相殺し、潜在的な損失を抑えるというものです。
簡単に言えば、保険をかけるようなものです。利益の上限を制限してしまう可能性はありますが、予想外の相場変動による大きな損失を防ぐことができます。着実に利益を積み上げるための手段であり、長期的に利益を上げるトレーダーはヘッジを活用してポジションを保護しています。リスクを完全に排除するのは不可能ですが、予測可能な範囲にコントロールすることが可能です。
それでは、初心者から上級者まで使えるいくつかのヘッジ戦略を紹介しましょう。
戦略1:シンプル・ヘッジング
FXヘッジの基本的な方法は非常にシンプルです。まず、既存のポジション(たとえばロング=買いポジション)を保有している状態からスタートします。その後、予想が外れた場合に備えて、反対方向(ショート=売り)のポジションを新たに建てます。
このタイプのヘッジは、すでに得た利益を守るためによく使われます。たとえば、EUR/USDを1.10でロングしたとします。数日後、レートが1.15に上昇し、十分な含み益が出ている状態です。
この利益を保護するため、1.15で同じロット数のショートポジションを建てます。その後さらにレートが上昇すれば、ロングでの利益が継続する一方、ショートの損失が発生しますが、トータルではまだプラスです。逆に1.12まで下がれば、ロングの含み益が減るものの、ショートでの利益がそれを補います。
「だったら1.15で利益確定すればいいのでは?」という意見もありますが、確かにその通りです。しかしヘッジを使えば、市場にとどまりながら状況の変化を見極めることができます。利益を維持したまま、より柔軟に戦略を調整できるのが利点です。
戦略2:オプションによるヘッジ
FXオプションとは、特定の期限までに特定の価格で通貨を売買する権利を購入する取引です。オプションは、保険料(プレミアム)を支払うことで、リスクを限定できる人気のヘッジ手段です。
例えば、AUD/USDを0.56でロングしているとします。相場が下落する可能性を考慮し、0.55のプットオプション(一か月有効)を購入します。
もしレートが0.55を下回れば、ロングポジションで損失が出ますが、プットオプションの価値が上昇し、その損失をカバーできます。一方、AUD/USDが上昇すれば、オプションは無効になりますが、支払ったプレミアム(保険料)だけがコストとなります。
なお、CFD(差金決済取引)を使ったヘッジも同様の考え方で実行可能ですが、本稿では割愛します。
このように、オプションを使ったヘッジはリスクを限定しながら利益の機会を残せる有効な方法です。
戦略3:複数通貨によるヘッジ(パーフェクト・ヘッジ)
複数の通貨ペアを活用する「パーフェクト・ヘッジ」と呼ばれる戦略もあります。これは、正の相関を持つ2つの通貨ペア(たとえばAUD/CADとEUR/GBP)に逆方向のポジションを建てる方法です。
まず、通貨の相関について簡単に説明します。
AUD(オーストラリアドル)とCAD(カナダドル)はどちらも「コモディティ通貨」と呼ばれ、石油や鉱物などの商品価格に連動しやすい特性を持っています。したがって、商品価格が上昇すれば、両通貨ともに強くなりやすい傾向にあります。
一方、EUR(ユーロ)とGBP(英ポンド)は、それぞれユーロ圏とイギリスの経済状況に左右されます。例えばユーロ圏の経済が好調でイギリス経済が低迷していれば、EURはGBPに対して強くなります。そのため、EUR/GBPの動きは地域経済のマクロ要因を反映することが多いです。
仮に、トレーダーが「EURが下落し、GBPが上昇する」と予想してEUR/GBPのショートポジションを持っていたとします。このリスクをヘッジするために、同時にEUR/GBPのロングを建てたり、AUD/CADのロングポジションを持つことが考えられます。
もしEURがUSDに対して弱くなった場合、AUD/CADロングは損失を出す可能性がありますが、EUR/GBPのヘッジポジションが利益を出すことで、それを相殺することができます。逆にGBPが弱ければ、ショートポジションでの損失をヘッジで補うことができます。
このような戦略は、複雑な通貨間の相関関係を理解していなければならず、判断を誤るリスクも高いため、初心者にはおすすめできません。